「子どもの健康と環境ホルモン」 〜今、子どもたちの身体に何が起きているのか〜

2010年4月16日 15時31分 | カテゴリー: トピックス

胎児期の性分化のメカニズムと環境ホルモン物質の関係を研究している 緒方勤先生(国立成育医療センター研究所・小児思春期発達研究部部長)の難しいけれど重要な話を聞きました。

 「奪われし未来」で世界中に衝撃を与えた、ダイオキシンを代表とする環境ホルモン問題。国は98年に65種類の化学物質を内分泌かく乱物質(環境ホルモン)に指定した(SPEED‘98)が、その後いずれの物質も哺乳類に対する内分泌かく乱(環境ホルモン)作用は否定され、ここ5年ほどは、マスコミがこの問題を取り上げることはなく、問題そのものがないような錯覚を与えているが果たしてそうだろうか。
 プラスチック焼却の環境への影響を懸念し「プラスチック焼却ストップ!」を訴える江東ネットは、化学物質の子どもの健康に与える影響と環境ホルモン問題を科学的に知るために、「2010年3月松葉調査実行委員会」主催の学習会に参加した。

男児の性分化障がいへの環境ホルモンの影響
 はじめに、男児の尿道下裂や停留精巣、精巣腫瘍の増加、精子数の減少という事実を示し、胎児小児期の性分化に与える環境ホルモン物質の影響と男性化障がいがおこるメカニズムを説明。尿道下裂は、男児の尿の出口が陰茎(ペニス)の先端でなく付け根の方に開いている病気。停留精巣は、腹腔から下りてきて出生時には睾丸内にあるべき精巣が、腹腔内に留まってしまう病気のことだ。
 これらの性分化障がいは、男の胎児の男性性機能の発達期(8〜16週)に大量に必要な男性ホルモン作用の不足によって起こるが、環境ホルモン物質の恐れのある多くのものは、女性ホルモン様作用を発揮し、尿道下裂や停留精巣の原因となる。これらの病気は同時に他の男性機能の低下とも連動し、外性器だけでなく脳の分化にも影響を与える可能性があることも指摘。精子数の減少傾向に関しては、さまざまなデータがあるが、総合的に減っていると考えられるとし、先進国の精巣腫瘍が増加傾向にあることも示した。

研究が進む化学物質の環境ホルモン様作用
 環境ホルモンは、これまでの化学物質とは異なり、ごく微量(ppb=10億分の1やppt=1兆分の1)で影響が出るが、同じように暴露しても発症する人としない人がいる。
緒方先生は、なぜ感受性にバラつきがあるのかを遺伝子解析を行い研究している。尿道下裂や停留精巣を発症した患者は高い感受性を持ち、女性ホルモン様作用を起こす環境ホルモン物質に対して、暴露量が少なくても発症するが、逆に感受性が低ければ同じ量を暴露しても発症しないという解析結果を示した。
 感受性によって発症が異なるため、環境ホルモン物質の影響を特定できず、影響が無いかのように結論づけられてしまうことが多い。しかし人がつくりだした化学物質は10万種ともいわれている。環境ホルモン様作用をおよぼす疑いのある化学物質は、一つひとつの作用は小さくても、総合的には大きな作用をおよぼす可能性があることも指摘している。

新たな化学物質の毒性=エピジェネティックス毒性とは
 環境ホルモンが子どもの健康に与える影響は特に大きく、新たな毒性分野=エピジェネティックス毒性についても言及している。
 ひとつの細胞である卵子は20兆を超える細胞に機能分化し、同じ遺伝子(DNA)を持つ細胞が、目になり心臓になり脳などになって人間になる。最も敏感なこの胎児小児期に、そのすべてをコントロールする発達システムへの化学物質が及ぼす毒性のことをエピジェネティックス毒性という。
 機能分化に際して遺伝子の一部の働きを抑える働き(メチル化)が起こるが、エピジェネティックス毒性は、遺伝子の構造は正常だがメチル化に異常を起こし病気の発生につながるというものだ。緒方先生は、体内に取り込まれた化学物質(環境ホルモン物質)がメチル化に異常を起こす可能性や因果関係を研究しているが、エピジェネティックス毒性によって起こった変異を人為的に元に戻すことは不可能だという。

「予防原則」でプラスチック焼却ストップ!
 環境ホルモン問題は、生殖の問題として危機感とともに社会的に取り上げられたが、現在、世界中でさまざまな研究がおこなわれ、より広い視点での評価が求められている。環境ホルモン物質が及ぼす影響は脳神経系の発達の遅れや免疫系の異常、肥満や糖尿病とのかかわりも指摘され、生活習慣病と言われる現代病が、化学物質の環境ホルモン作用とかかわりがある可能性があるのだ。
 緒方先生の話を一度聞いただけで理解するのは難しく、理解し簡単に説明することなどとうていできないが、最も大事なのは…
子どもたちの健康を守るためには、
①化学物質にさらさないための「予防原則」と、②環境汚染を減らしていく「予防原則」だということだ。